昭和50年、小学3年生まで銭湯に行っていた。間借りの小さな家に、家族４人で暮らしていて当然風呂などない。銭湯に行かない時は、やかんで沸かした湯を「たらい」に入れてもらって、洗濯機の前で全身を洗っていたのを覚えている。
小学1年生ぐらいの時、父と銭湯に行った。背が低いくせに棚に置いてある洗面器を自分で取りたがった。ダメと言われても聞く耳持たず背伸びして取ったが、私は洗面器をつかみきれずツルッと飛ばして、髪を洗っていた背中一面に刺青がある人の頭にヒットさせてしまった。更に恐ろしいことに、私は吹き出した。ドリフのコントとかぶってしまったんだ。父は顔面蒼白で私の頭を押さえつけながらペコペコ謝り倒した。その人は子供の失態に声を荒げることもなく許してくれ髪を洗い続けた。でも、父は死ぬまで「自分の人生の中で怖かったランキング上位」のその話を何年かごとに愚痴っていた。
