母は、足腰が強い元気なお婆さんだったのに、緊急事態宣言で外出しなくなってから、杖をつくか 伝い歩きしか出来なくなった。最近は耳も遠く、物忘れもひどい。サラダが好きで、レタスとトマトを切らした事がなかったのに、いつしかレタスを買わなくなり、トマトを買っても冷蔵庫に放置するようになった。
私が泊まりに行った日、がさごそと晩ご飯の支度をしようとする母を見て「やるからあっち行って」と言った。いつも自分で用意して食べてるから出来ない事はないけど、私がいる時は私がやる。それに周りでよたよた歩かれるとイラつく。一緒に台所にいると、冷蔵庫を開けっぱなしにして何が入ってるか一個づつ見せてくるから面倒くさい。狭い台所で「ブリタの水入ってないわ」「入れるからあっち行って」「いやや、自分で入れたい」私は母が「いやや」って言ったら猛烈に腹が立つ。ババアの「いやや」って【頑固】以外何物でもない。私はため息をついた。普段、会話を交わしてても相槌も返事も聞こえないくせに、ため息は聞こえてしまった。母は「すんません」と小さく言って、お風呂に入った。例え「ゴメン」でも嫌だった。私に乳を飲ませ、おむつを替えてくれ、面倒も迷惑もかけた母に謝らせた自分にバカバカバカ。母が風呂にいる間泣いた。
あと10年も生きられないであろう母に、もっと優しくしてあげたいのに、姉と私は度々ムカついて気が狂いそうになる。
